砂漠に引っ越して自由になった画家の話
孤独であることは、なんて自由なのだろう。アメリカの女性画家、ジョージア・オキーフがニューメキシコの砂漠の中にある2つの家に居を移したのは、62歳のとき。ニューヨークという都会で窒息しかけていた彼女は、まったく違った呼吸をするためアドービ(日干し煉瓦)の美しい、新しい家での生活を一人で始めたのだ。
荒涼たる砂漠地帯にある「ゴーストランチの家」。ここで春と夏を過ごし、秋と冬は緑の茂った庭や菜園のある「アビキューの家」で過ごす。この本は、そんなオキーフが最晩年の30年間暮らした2つの家が、どのようにつくられ、どう作品制作に影響を与えたのかを知る1冊だ。ずっと英語版を紐解いていた僕にとっては、待望の翻訳版ともいえる。
オキーフは2つの家があるニューメキシコの砂漠について「この土地は芸術家のために創造された」と語った。実際、そこで目にした風景や触れた空気が、いかに画家の晩年を充実させたかは、本書に収録されている作品群を見れば明らかだろう。しかも、絵画作品の隣ページには、彼女が見ていたであろう写真が掲載されている編集法も面白い。
自分に必要な磁場は、自らつくる。ネット上の不動産情報を眺めていても、よい住処はできあがらないことを僕は確信した。
『ジョージア・オキーフとふたつの家−ゴーストランチとアビキュー』
バーバラ・ビューラー・ラインズ&アガピタ・ジュディ・ロペス/内藤 里永子 訳/
KADOKAWA メディアファクトリー/2015年
飛ぶ教室 2016 WINTER(2016年1月25日発売)に寄稿