幅允孝は石垣島の図書館で、本選びの根っこを思い出す
もし石垣島にいく機会があったら、ぜひ石垣市立図書館を訪ねてみてください。仕事柄、僕は図書館にいく機会が多いのだけど、こんなにも心地よい図書館には、なかなかお目にかかれないと思えたのだ。
流行りのモダン公立図書館と違って、石垣市立図書館は1990年の開館。決して真新しい場所ではない。建物は、南国らしい赤瓦屋根が特徴的。その天井は高く美しいのだが、今年直撃した超巨大台風15号による雨漏りがひどく、本棚をブルーシートで覆い何とか本を水から守ったらしい。
石垣市立図書館の蔵書数は27万冊。全国的に見れば平均的な中規模図書館という位置付けになる。だけど、「図書館の魅力は蔵書数ではないのだな」と感じさせる創意工夫が、ここでは随所にちりばめられている。来館者や読者のことを考え抜いて差し出される本には、すべて血が通っている気がしたのだ。
まず面白かったのが、休館日でもエントランスには新聞を置くということ。二重になっている入り口自動扉の外側のみを開放し、小さな机とその日の新聞を設置している。家では新聞を取らない近所の老人が、小さな空間でじっと新聞に目を通しているそうだ。
図書館全体を見渡すと、とにかく郷土の本を大切にしていることもよくわかる。沖縄県を舞台にした絵本のフェアや、沖縄の出版・活字文化の企画棚もよいのだが、僕が注目したのが「八重山地域情報センター」なる小部屋。石垣島と周辺離島に関する本を集め、自分たちに関わる情報を大事にしている。「石垣島の猫」本もあれば、島内で見られる鳥や植物の図鑑も充実。沖縄本島より距離的には近い台湾関連本も数多く揃う。
そして、その傍らには「尖閣諸島資料コーナー」も。「政治的に難しい問題を公の図書館ではどう扱うのか?」という大命題に対して、ここの図書館は「尖閣諸島に関する出版物をすべて網羅する」ことで公平さを保とうと努力している。読者に答えを与えようとするのではなく、考え続けるためのガソリンを補給するのだ。
一方、子供のコーナーを見回すと、じつに愉しいフェアが開催中だった。名付けて「たろう選手権 最強の◯◯たろうは俺だ!」。エントリーしている「たろう」は、「桃太郎」、「金太郎」、「浦島太郎」、「ちからたろう」、「三年寝太郎」、「ねぎぼうずのあさたろう」などなど。要は、絵本に登場する「〜たろう」の最強者を決めるアンケートである。auのCMを視て思い付いたという担当者に話を聞くと、実際の「たろう」本を読むとシールがもらえ、投票シートにシールを貼れるのだという。ささやかなフェアだけど、何とも愉快なアイデアだし、エントリーしている「たろう」本の貸し出し率は急激にアップしているそうだ。素晴らしい!ちなみに現在トップを走る最強たろうは「忍たま乱太郎」だそうです。
結局のところ、届け手が愉しそうに本を差し出せば、それがどんな本であってもポジティブな空気を纏って伝わる。施設のデザインやカフェ併設よりも大切な、本を伝える上で最も大切な根っこが石垣島の小さな図書館には育まれていた。
ケトル vol.28 December 2015に寄稿